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【青色ひよこのカルチャーコラム】 Copyrights(C)2019青色ひよこ All Rights Reserved.

   
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2016 / 02 / 26/ 金

マッシブ・アタック(Massive Attack)の新しいPVをみた。スコットランドのヒップホップトリオ、ヤング・ファーザーズ(Young Fathers)も参加した曲だ。映画『ゴーンガール』で高い評価を得た女優:ロザムンド・パイクが踊り狂うさまが鮮烈だ。

♪♪♪

『Voodoo In My Blood』-Massive Attack, Young Fathers

♪♪♪

不穏な音にのせて靴音が響く。少し疲れた様子もみえる美人が地下道を歩いてく。彼女は時折、不安な表情で振り返る。何かに追われているのか?ただごとならぬことが起きそうな雰囲気。

突然、無機質な壁から色彩と幾何学模様ののエリアになる。彼女の眼前には金色の球が浮かんでいる。それをみて、とりつかれたように笑う彼女。しかし、球体からの一撃をうけ、一筋の涙をながしたあと、身体を振り回しはじめる。

それは踊っているとは言い難い。踊らされているとしか思えない動きだ。自らの意思とは関係ない。まるで痙攣のような。コンテンポラリーダンスにもみえるが、精神病患者の発作にもみえる。こわい。目が離せない。

♪♪♪

美しく浮かぶ金色の「それ」。「それ」につきまとわれる身体は、エクソシストの少女リーガンのように、あらぬ方向へひきずらり回され、押し返される。彼女は「それ」の前では正気でいられない。自分を見失い、髪をふりみだし、胸をかきむしっても、逃れられない。

♪♪♪

「それ」と「彼女」の関係は何の比喩なのだろう。子と親か?夫と妻か?集団と個か?薬物と人間か?あるいは欲望と私か?

どちらかが一方的に暴力をふるう世界で「彼女」の側を演じる者はただただ、振り回されるしかない運命なのか。しかし金色の「それ」もまた、彼女から離れようとはしない。痙攣する彼女を見ることをやめない。

「それ」もまた、自由を失っている。ひとりで浮遊する自由を捨て、彼女につきまとい命令し、支配しつづける不自由に、とらわれているからだ。

♪♪♪

曲名がほのめかすのは、彼女は「呪い」にかかってるということだ。金色の「それ」とは、美しい呪い。

彼女は「呪い」に自ら近づいたのだろうか。YES。しかし「呪い」の方もまた彼女を選んだのだ。

呪いの正体は、「好き」かもしれない。嫌いなことは逃げればすむが、好きはやっかいだ。好んで振り回され、したくもないこともしてしまう。結局、踊らされる。一人で歩く自由は不安だから、一人で存在しているのはむなしいから、すがってしまうのだ。「好き」ということばで。

♪♪♪

祖母が、いやというほど何度もプレゼントしてくれる道徳本には、繰り返し同じことが書かれている。自分をみるな、そうすれば幸福になる、と。

本当にそうなのだろうか。それは、踊らされているだけではないのか。踊らされている自分を見ずにすむから、幸福と勘違いするのではないか。

あたしが美意識として最も影響を受けたパンクスたちは、繰り返し言っていた。「すべてを疑え」と。「Do It Yourself 自分自身であれ」と。

♪♪♪

あたしはずっと、考えている。執着と依存という呪いにからめとられず、相手のそのままを眺めることはできるのだろうか。自分自身である、ということを美意識にするのなら、相手を変えようと工作せず、そのままであることを認めなければ矛盾する。

♪♪♪

あたしと暮らしている人は、「人生は<過ごす>もの」だと言った。

「過ごす」・・・達観にも諦観にも聞こえることばだ。ただ過ごすということができるようになれば、踊らされずにすむような気がしている。

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2012 / 01 / 16 / 月
  【参考URLのみ修正・最終更新日】2019 / 06 / 30 / 日
 
ショーン・タン(Shaun Tan,1974~)作「アライバル」(The Arrival)を読んだ。読んだと言っても、文字ではない。「絵」。この本には、言葉が一切ない。絵だけでストーリーが綴られる「絵小説」(グラフィックノベル)。
 

 
セピア調のページをめくり、丹念に描かれた鉛筆画の一コマ一コマを「読んで」いく。まるで誰かの古いアルバムをめくるよう。表紙を開いた「見返し」部分で、もう手がとまる。それは、パスポートの証明写真のような顔写真の絵がびっしりと並ぶ見開き画面。人種も民族も性別も年齢も様々な顔・顔・顔。現実味のある「無名な誰か」の羅列に圧倒される。こちらをじっと見つめる彼らの表情は、皆、一様にこわばっている。この張り詰めた空気感は、この物語のムードを象徴するものだ

なぜなら「アライバル」は、移民の話だから。新しい世界の扉をあけることへの怯えと緊張が、物語以前の見返し部分で既に語られる巧みさにしびれる。そして、読者であるあたしもまた、この瞬間から彼らと同じ不安と、かすかな期待を胸に抱える。本を開くことは新世界を旅することだから。

お話の主人公は「ある男」。妻と娘を残して故郷を離れた男が、移民となり新しい文化や環境に順応していくさまが描かれる。新しい国で出会う、新しい人々。彼らの過去もおりまぜながら、男が仕事を得て、家族を新天地へ呼び寄せるまでが描かれる。

物語は、I部~VI部に分かれている。I部の1ページ目とVI部の1ページ目の絵は奇妙に呼応している。どちらの絵も描かれるのは、ささやかな日常の断片。似たような生活雑貨が細々と羅列される両者は、まるで間違い探しの絵のように、小さく違っている。I部の方は故郷での暮らし、そしてVI部の方はは新天地での暮らし。

この2枚の絵を見比べるだけで、胸が詰まる。ここにある小さな違いに、家族の激動の歴史が隠されているから。一見すると何も変わらないようにすらみえる風景。「終わりない日常」は、実はたやすく奪われ壊れてしまうもの。新天地に再現された既視感たっぷりな風景こそ、男が死にものぐるいで守ろうとしたもの。普段あなどっているものの、かけがえのなさに気づかされて、はっとさせられる。

絵だけで物語をよませる工夫として、多用される比喩的な表現がほんとに魅力的。作者自身が創り出した奇妙なかたちの「幻獣」たち。その不思議な生き物の存在が語りかけてくる、深いメッセージ。言葉なしにここまでの内容を伝えられるんだ・・・。

故郷を去ることになる理由として描かれているのは、街に不気味な闇を落とすドラゴンの影。それが貧困の象徴なのか、悪化する情勢の比喩なのか、詳しくはわからない。ここでは、たちこめる不穏な空気感が、ドラゴンのような幻獣に託される。

移民になった男がたどりつく新天地では、人々は皆、ペットのような変な生き物を携えて生きている。男にも、「幻獣」がまとわりつき、当たり前のように共に生きることになる。この「幻獣」は何なんだろう。移民としてやってきた人々の、故郷への断ちがたい思い?。それとも、未知の土地で、自分を押し殺していきていかねばならない彼らの本音の象徴?言葉がない、ということは、読者にどんな風に読むかも託されている。その豊かさが、何度も何度もページをめくらせる。

絵で物語を伝えるための、あらゆる工夫が細部にまでいき届いているのが、素晴らしいと思う。言葉のかわりをする記号的表現を使わざるを得ないけれど、わざとらしさは感じない。ひとつひとつのモチーフの、説得力ある描写が、大袈裟に見えがちなパントマイム的仕草や表情にまで、リアリティーを与えている。作者は実際に移民の資料にあたり、それを参考に描いたという。この作品のリアリティーは、そういった取材の力だけでなく、移民に対する作者自身の深い思いに根ざしている。ショーン・タンは移民の子というアイデンティティを持つからだ。

ショーン・タンはオーストラリアのパース郊外に生まれた。父親がマレーシアからの移民だそうだ。この作品の主人公のモデルには、彼の父も含まれるだろう。では、物語にでてくる「娘」はショーン・タンの分身だろうか?

移民になる時、人は、使い慣れた言葉を封印し、新しい言葉の獲得を迫られる。コミュニケーションの方法を、別のかたちに更新することが求められる。そのことは、この意欲的な本の試みと似通っている。「言葉を使わず絵だけで物語を伝えられるだろうか」。ショーン・タンがこの本を創るにあたって悩んだ諸問題は、彼の父親が新天地でぶちあたった壁と同じだったかもしれない。絵だけで伝えるという新しいコミュニケーションの方法論を見つけ出し、見事にミッションをやりとげたショーン・タンは、父がオーストラリアに馴染むためにしてきた努力や工夫を、追体験したのではないかと思う。

物語のラストシーン、新天地で生きていくことになった主人公の娘がするささやかな行為は、移民の子がその場所をホームとして受け入れていることが分かるもの。小さな希望がまぶしい。

ショーン・タン・オフィシャルページ
http://shauntan.net/

Red Leap Theatre "The Arrival" 動画
http://www.youtube.com/watch?v=GpoKXTqQYjg&feature=player_embedded
ニュージーランドの劇団”Red Leap Theatre”が「アライバル」を舞台化したときのハイライト映像。世界観が再現されてる。観たい!
  
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